脳に存在する物質であるアデノシン及びその誘導体は、中枢神経系の神経伝達に対しneuromodulatorとして作用し、上丘においては主として興奮作用をもつことが明らかにされている。本研究課題においては、この神経伝達促進作用の分子機構を解明することにある。 本年度は(1)その機構解明の1つとして、in vivo系においてアデノシンの局所的な増加が直接的に興奮作用に結びつくかについて検討した。すなわちin vivoラットにおいて、アデノシンデアミナーゼ阻害剤であるEHNA(25mg/kg)を腹腔内投与し、上丘でのアデノシン量を測定すると、その量は2.6倍に増大した(25.5mg/g蛋白→68.3mg/g蛋白)。逆にアデノシンの代謝産物であるイノシン量は、1/4に激減した。この時、上丘表面での脳脊髄液のアデノシン濃度は1.5倍に増大した。一方、視神経刺激で上丘浅灰白質層に誘発されるシナプス電位の振幅は、上丘アデノシン濃度の増大とともにもとの130%に増大し、in vivoにおいてもアデノシンの局所的な増加が上丘浅灰白質層での神経伝達を促通していることが明かとなった。(2)アデノシンがシナプス後性に興奮性作用をもつかどうかについて検討するため、上丘浅灰白質層からニューロンを単離し、その培養細胞に対するアデノシン及びその誘導体を作用させ、チャンネルレベルのアデノシンの効果をパッチクランプ法にて調べた結果、シナプス後性にはK^+電流を増大し、その受容体はP2プリン受容体であることが明かとなり、上丘においてはシナプス後性のアデノシンの作用としては海馬と同様の抑制機構が存在する可能性が示された。 現在アデノシンのシナプス前性への興奮性効果の機構を検討するためスライススパッチによる解析を進め、平成8年度にはその機構の解明に大きな進展が見られる予定である。
|