アデノシンの神経伝達促通作用の分子機構の解明

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07680895
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 岡田 安弘 神戸大学, 医学部, 教授 (40073069)
• キーワード: アデノシン / 中枢神経系 / 上丘 / 神経伝達 / 興奮作用 / A2受容体

研究概要

脳に内在する物質であるアデノシン及びその誘導体は、中枢神経系の神経伝達に対し抑制性と興奮性のneur omodulatorとして作用しているが、上丘においては主として興奮性効果をもっている。本研究課題は、上丘におけるアデノシンの神経伝達促通作用の機序についてその分子機構を解明することである。
平成7年度の研究で、ラットにアデノシンの分解酵素であるアデノシンデアミナーゼ阻害薬(EHNA)を投与して、上丘の内因性アデノシンの上昇によって神経伝達が促通されることが確認されたが、その成果に基づいて平成8年度はこの促通作用がアデノシンのどの受容体を介してなされるかその分子機構を検討した。
すなわち、ラットin vivoで上丘浅灰白質層より視神経の刺激で誘発されるシナプス電位(C1,C2波)を記録した。EHNAを10mg/kgi.p.投与すると上丘表面(第4脳室)に貯留する脳髄液中のアデノシンの濃度は3倍にも増加し、この時シナプス電位の振幅は150%に増大した。EHNA投与前にアデノシンA1受容体アンタゴニストであるDPCPX,A2アンタゴニストであるKF17837を投与しておくと、KF17837の前処理によってシナプス電位の振幅の増大は抑制されるが、DPCPXはEHNAの興奮作用に変化を及ぼさなかった。これらの事実は上丘におけるアデノシンの興奮性効果が、アデノシンのA2受容体を介してなされていることを示している。さらにRT-PCR法を用いて上丘にはA2アデノシン受容体mRNAの存在することを確認した。これらの結果によって上丘におけるアデノシンによる神経伝達促通作用はアデノシンのA2受容体を介してなされることが明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] H.Hirai,Y.Ikeuchi,Y.Okada: "The contribution of PKA to the excitatory mechanism of adenosine in guinea pig superior colliculus slices" Neurosci.Lett.182. 33-36 (1994)
• [文献書誌] Y.Ikeuchi,T.Nishizaki,M.Mori,Y.Okada: "Adenosine activates the potassium channel via a P_2 purinoceptor but not via an adenosine receptor in cultured rat superior colliculus neurons" Neurosci.Lett.198. 205-208 (1995)
• [文献書誌] H.Hirai,Y.Okada: "Adenosine facilitates in vivo neurotransmission in the superior colliculus of the rat" J.Neurophysiol.74. 950-960 (1995)
• [文献書誌] Y.Ikeuchi,T.Nishizaki,M.Mori,Y.Okada: "Adenosine activates the K^+ channel and enhances cytosolic Ca^<2+> release viaa P_<2Y> purinoceptor in hippocampal neurons" Eur.J.Pharmacol.304. 191-199 (1996)
• [文献書誌] 岡田安弘: "中枢神経系におけるアデノシンの神経伝達抑制、促通作用" 神経精神薬理. 205. 265-272 (1997)
• [文献書誌] S.Ishikawa,K.Saijoh,Y.Okada: "Endogenous adenosine facilitates neurotransmission via A_<2A> adenosine receptors in the rat superior colliculus in vivo" Brain Res.751 (in press). (1997)