脳に存在する物質であるアデノシン及びその誘導体は、中枢神経系の神経伝達に対しneur omodul at orとして作用し、上丘においては主として興奮作用をもつことが明らかにされている。本研究課題においては、この神経伝達促進作用の機構を解明することにある。 平成7年度は(1)その機構解明の1つとして、in vivo系においてアデノシンによるグルタミン酸放出が直接的に興奮作用に結びつくかについて検討した。すなわちin vivoラットにおいて、アデノシンデアミナーゼ阻害剤であるEHNAを腹腔内投与すると、マイクロダイアリシス法で定量した上丘でのグルタミン酸の放出が170%に増大した。一方、視神経刺激で上丘浅灰白質層に誘発されるシナプス電位の振幅は、上丘グルタミン酸放出の増大とともにもとの130%に増大し、in vivoにおいてもアデノシンの局所的な増加が興奮性伝達物質であるグルタミン酸の放出を増大させ、上丘浅灰白質層での神経伝達を促通していることが明かとなった。(2)アデノシンがシナプス後性に興奮性作用をもつかどうかについて検討するため、上丘浅灰白質層からニューロンを単離し、その培養細胞に対するアデノシン及びその誘導体を作用させ、チャンネルレベルのアデノシンの効果をパッチクランプ法にて調べた結果、シナプス後性にはK^+電流を増大し、その受容体はP2プリン受容体であることが明かとなり、上丘においてはシナプス後性のアデノシンの作用としては海馬と同様の抑制機構が存在する可能性が示された。 平成8年度は上記平成7年度の実績に基づき、上丘におけるアデノシンの興奮性効果がアデノシンのどの受容体を介して惹起されているかを明らかにするために、ラットを用いてEHNAによる興奮性効果がA1、A2アンタゴニストで抑制されるかどうかを検討した。EHNAによって上昇するアデノシンによる興奮性効果は、A1受容体アンタゴニストであるDPGPXの前投与によって抑制されないが、A2アデノシン受容体アンタゴニストであるKF17837によって抑制された。さらにRT-PCR法によってA2アデノシン受容体mRNAが上丘に存在することが確認された。これらの事実は、上丘における神経伝達が内因性のアデノシンによって促通されること、その促通効果はアデノシンのA2受容体を介して惹起されることが明らかとなった。
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