発達期の大脳皮質視覚野では視覚体験により誘発される神経活動に基づき細胞の選択的視覚反応性が形成される。この反応選択性発達の基礎と考えられる長期増強と長期抑圧が興奮性と抑制性のシナプスに生じることは明らかにされていが、シナプスの伝達効率の変化がどこに生じ、どのように維持されているかは解明されていない。本年度の研究では、視覚野における抑制性シナプス伝達の長期増強の発現部位をラットの視覚野切片標本を用いて解析した。 興奮性シナプス伝達を薬理的にブロックし、IV層の刺激によりV層細胞に誘発される抑制性シナプス後電流(IPSC)をブラインド・パッチクランプ法により記録し、IV層の高頻度刺激により長期増強を引き起こした。短い間隔(300ms)で2回続けて刺激を加えると2回目の反応が1回目の反応より小さくなるpaired-pulse depession(PPD)はシナプス前側で生じる現象と考えられるので、PPDを調べることにより長期増強がシナプス前で生じる可能性を検討した。 長期増強が起こるとPPDの平均値に変化は認められなかったが、その分散は有意に減少した。PPDの分散は、4-aminopyridineを灌流液に加えて伝達物質の放出を増加させると減少し、細胞外液のCa_<2+>濃度の低下やbaclofenを加えることにより伝達物質の放出を抑えると増大するのに対して、シナプス後細胞の膜電位を変化させてIPSCの振幅を変化させても変わらなかった。従って、PPDの分散はシナプス前側の状態を反映しており、長期増強における伝達効率の上昇の少なくとも一部はシナプス前線維からの伝達物質の放出量の増加によると考えられる。
|