アメリカナマズ(Ictorulus punctatus)網膜の水平細胞には、GABA_cレセプターが発現している。ところが、水平細胞近隣にはGABAを伝達物質として放出する神経細胞がなく、GABA_cレセプターがどのようにして活性化するのかは明らかでない。水平細胞自身はGABAを伝達物質として放出しているため、このGABAがGABA_cレセプターを活性化する可能性は高い。今回、この可能性を検討した。 水平細胞が放出したGABAは水平細胞膜に存在する起電性GABAトランスポーターにより取り込まれ、細胞外から速やかに除去される。本研究では、このトランスポーターによるGABAの取り込みを電気生理学的手法を用いて解析し、水平細胞周辺にGABA_cレセプターを活性化するだけのGABAが存在するのか否かを調べた。 結果:GABAトランスポーターによるGABAの取り込みには、細胞外のナトリウムイオン(Na^+)と塩素イオン(Cl^-)の存在が不可欠であった。GABA取り込みの際に発生する電流はNa^+とCl^-によって運ばれ、この電流は水平細胞の生理的膜電位の範囲内で内向きであった。用量-応答曲線から求めたEC_<50>は約10μMであり、Hill係数は約1であった。GABAトランスポーターの阻害剤として知られているnipecotic acid及びその誘導体であるSKF89976Aは、この電流応答を抑制した。 考察:細胞内外のNa^+濃度、Cl^-濃度及び細胞内のGABA濃度を考慮して、水平細胞周辺のGABA濃度を推定すると、水平細胞の膜電位が-70mVのとき1.6μM、また-25mVのとき9.5μMであった。この計算結果から、GABAはトランスポーターにより水平細胞に積極的に取り込まれるが、その取り込みは不完全であり、細胞外にも比較的高濃度残存することが推測された。このGABA濃度は、GABA_cレセプター(EC_<50>=2μM)を活性化するために充分であった。
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