運動遂行中のサル大脳皮質体性感覚野には、運動遂行に伴う受容野の機械的刺激に先行して活動を開始するニューロンや、受容野が存在しないのに運動遂行に伴って活動するニューロンなど、その受容野が刺激されていないにも拘わらず活動が誘発されるようなニューロンが存在する。この活動が、運動に先立つ動物の注意や期待などの心的要因によって引き起こされた可能性を検討するために、心理学的にヒトの心活動をよく反映することが知られている瞳孔面積の変化と、運動遂行時や受動的刺激時のサル体性感覚野手指(II/III指)領域ニューロンの活動との関係を解析した。 LEDのインストラクションによる指運動課題遂行中、手指運動に先行してほぼ常時瞳孔面積の増大が引き起こされた。散瞳の程度は、報酬獲得率の高い時期には大きく、実験終了近くで十分な報酬を得た後には小さかった。このことから、瞳孔面積の変化はサルにおいても運動に伴う心活動の良い指標となることが示唆された。解析を行った212個のうち、27個のニューロンで、運動に伴う受容野刺激に先行する散瞳の開始と同時に発火頻度が著名に増加した。課題遂行中LEDの点灯に伴って散瞳は引き起こされたが手指運動は行わなかった試行中では、散瞳の大きさと、誘発された活動電位(これはサルの注意のみによって引き起こされたと考えられる)の数との間には有意の相関が見られた。一方、指運動をさせる代わりに受動的刺激を行い、LEDが点灯中に刺激と同時に報酬を与えると、LEDの点灯に前後して散瞳が誘発された。受動的刺激に対する応答を解析した115個のニューロンのうち、14個のニューロンで散瞳している最中に与えられた刺激に対する反応のほうが安静時よりも大きく、12個のニューロンでは小さかった。これらの結果から、体性感覚系にトップダウンの情報処理があることが示された。
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