サルの大脳皮質表面と表面から2.0-3.0mm深部へ埋め込んだ慢性電極を用いて行動中のサルからフィールド電位を記録し、解析するという方法を用いて認知機能の中枢神経機構につき研究した。サルに聴覚刺激(純音及び複合音)を与え、刺激に応じて迅速、的確にレバ-上げするようになるまでの学習過程中、左右大脳半球の多くの皮質部位から同時にフィールド電位を記録し、行動との関連性について検討したところ、刺激が純音より複合音の場合にサルが刺激とレバ-上げ運動の連合を行い易く、さらに刺激と運動の連合(認知学習)に伴い、左大脳半球弓状溝下行枝吻側壁に大脳皮質の表面で陰性、深部で陽性の電位の記録されることが判明した。刺激が視覚刺激(LED使用)の場合について検討したが、認知学習に伴い、左大脳半球前頭前野の弓状溝下行枝吻側壁に聴覚刺激の場合と同様の電位の記録されることが分かった。一方右大脳半球の同じ部位では認知学習に関連する電位活動は見られず、報酬への関心が強い時に視覚刺激に応じて運動する場合は関心が少ない場合に比べて特有の電位活動が記録された。これらのことは運動が発声の場合にも同様であり、聴覚刺激と発声の連合に際し、上肢運動の場合と同様の電位活動が記録された。以上ら左大脳半球前頭前野は認知機能に関与し、一方右大脳半球前頭前野は情動に関連することが示唆された。 左大脳半球前頭前野の認知学習に関連する電位活動は大脳皮質の表面で陰性、深部で陽性の電位なので浅層性視床大脳皮質投射による反応と考えられる。この電位活動への小脳切除および大脳基底核(被殻或いは淡蒼球)の局所冷却の影響について検討したが、明確な影響はみられなかった。
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