ニホンザルの顔面運動野や運動前野腹側部は、発声に先行して運動準備電位が出現するので、発声関連皮質と考えられる。クロラロース麻酔下でニホンザルの小脳核を同心円電極をもちいて電気刺激し、顔面運動野や運動前野腹側部などから、大脳皮質フィールド電位を記録した。誘発応答は、小脳外側核と中位核刺激により、刺激と対側の顔面運動野や運動前野腹側部の上部で記録された。小脳内側核刺激では誘発応答は見られなかった。誘発応答は表面陰性-深部陽性の大脳皮質フィールド電位からなる浅層性視床大脳皮質応答であった。この小脳-大脳皮質投射の視床中継核を形態学的に検索する目的で、顔面運動野と運動前野腹側部に蛍光色素(Fast Blue、Diamidino Yellow)、小脳核にWGA-HRPを注入した。蛍光色素により逆行性に標識される視床細胞の分布とWGA-HRPにより順行性に標識された線維終末の分布の重なりを調べた。その結果、小脳核から顔面運動野への投射は主に視床後外側腹核吻側部で中継され、運動前野腹側部上部への投射は主に視床X領域で中継されていることが判明した。この小脳-大脳皮質投射の生理学的機能を調べるため、聴覚刺激に応じて発声(聴覚始動性発声課題)させるように訓練したサルにおいて、右側の小脳中位核と外側核の破壊による発声の変化を調べた。聴覚始動性発声課題における反応時間は小脳核破壊前と破壊後で明確な差は見られなかったが、音声をソナグラムで分析すると小脳核破壊前には見られなかった4-5kHzのスペクトル成分が、破壊後に高頻度で見られるようになった。 以上により、発声に関連する大脳皮質への小脳からの投射経路が明らかになった。小脳核を破壊すると発声の音声構造が変化したことから、この小脳大脳皮質投射が発声の制御に関与していることが示唆された。
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