研究概要 |
海馬CA3領域を起源とする興奮性線維であるSchaffer側枝の分枝をうけている中隔核を用い、海馬における興奮性シナプス伝達(EPSP)の長期増強(LTP)が、近接する他の神経核にどのような影響を及ぼすかについて検討した。予想に反して、海馬采の高頻度刺激により、EPSPのLTPは必ずしも観察されず、むしろ抑制性のシナプス後電位(IPSP・LHP)の長期増強が観察された。この抑制性シナプス後電位の長期増強は、中隔核に存在するGABA作動性介在ニューロンにおけるEPSPのLTPを介している、いわゆる二次的長期増強であることが強く示唆された。GABA_A受容体の阻害剤でIPSPを抑制してもEPSPのLTPは著明ではなかったが、さらにGABA_B受容体阻害剤を加えてLHPを強く抑制した条件下では、約80%のニューロンでEPSPのLTPが引き起こされた。細胞内にセシウムを注入して、LHPによる過分極を抑制した条件下ではEPSPのLTPがみられた。GABA_B受容体阻害剤存在下で高頻度刺激中に過分極DC通電を行うと、EPSPのLTPが抑制された。記録したニューロンの形態学的特徴および電気生理学的特性から、少なくとも2種類が存在した(TypeI,TypeII)。どちらのタイプもGABA_B受容体阻害剤存在下ではLTPが観察され、TypeIIニューロンの約50%でGABA_B受容体阻害剤がなくてもEPSPのLTPが観察された。ペア-パルス刺激による実験から、GABA_B受容体を介するEPSPのシナプス前性の抑制機序も関与しうることが示唆された。以上の結果より、1)高頻度刺激時に十分脱分極する条件下では多くのニューロンでEPSPのLTPを起こしうること、2)外側中隔核主ニューロンにおけるEPSPのLTPは抑制性シナプス後電位により強く抑制されていることが考えられる。
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