成熟ラット脊髄の横断スライスに後根を付した標本を用い、ビククリンおよびストリキネン有在化で誘起される緩徐抑制性シナプス電位を後角第2層、いわゆる膠様質細胞から細胞内記録法によって記録、解析した。後根A_δ線維の単発刺激は速い経過の興奮性シナプス電位(fast EPSP)と抑制性シナプス電位(fast IPSP)を誘起した。fast IPSPはGABA_A受容体およびグリシン受容体が関与し、それぞれ、ビククリンとストリキニンで抑制される。約40%の細胞ではビククリンおよびストリキニン存在下にA_δ線維を単発刺激すると著明に長く持続する緩徐抑制性シナプス電位(l-slow IPSP)が視察された。このl-slow IPSPは膜抵抗の減少を伴い、カリウムの平衡電位でその極性が逆転することからカリウムイオンの関与が示唆された。一方、膠様質細胞に過分極作用を示す伝達候補物質のうちノルアドレナリン、セロトニン、ソマトスタチン、エンケファリンはl-slow IPSPと類似の過分極応答を惹起した。しかし、l-slow IPSPはノルアドレナリン、セロトニンおよびエンケファリン受容体拮抗薬に非感受性であることから、ソマトスタチンがその伝達物質として最も考えられた。事実、l-slow IPSPはソマトスタチン誘起過分極発生中ではocclusionされ、ソマトスタチンとl-slow IPSPが少なくとも同じイオン機序を持つ可能性が示唆された。
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