本年度は以下の実験を行った。 1.繁殖期の冬期に人工授精による繁殖を試みた。腹腔鏡及び血中ホルモンの測定によって排卵日を推定し、電気刺激法によって得た精液を経膣法によって6頭に注入した。その結果、子宮体部内に完全に注入できた3頭は妊娠が成立し出産も確認できた。しかし子宮体部内に注入できず子宮頚管内での注入に止まった3頭は妊娠には至らなかった。 2.非繁殖期の夏期に、誘起排卵後冬期同様に6頭に人工授精を行った。しかし夏期のメスの性腺機能をGnRHのみで十分な機能回復と維持が出来なかったこと、オスの性腺機能はメス同様に明瞭な低下が見られ、とくに精子の授精能の低下も見られたこと等から、妊娠させるには至らなかった。 この様に経膣的人工授精法は繁殖期では成功したが、非繁殖期では成功せず、人工繁殖法としては十分な方法ではないと判断された。そこで今までの技術を応用して体外受精、顕微授精法について検討した。 3.体外受精、顕微授精に用いる卵子は、PMSG、hMGあるいはFSHの投与による誘起排卵法により得た成熟卵と電気刺激により採取した精子を用いて試みたところ、冬期、夏期何れの時期においても体外受精では16頭中12頭で、顕微授精では4例中4例で受精に成功し卵の2〜6分割を確認することが出来た。その後、腹腔鏡観察下での卵管内胚移植を試みたが、妊娠には至らなかった。 4.一方、夏期の性腺機能の低下への対応策として、冬期の精子の凍結保存および受精卵の凍結保存の検討を行った。その結果、何れも予備的な試験では期待通りの良好な結果を得ることが出来た。 この様に、本年度は人工授精法と体外受精法、顕微授精法について検討を加えたが、安定した人工繁殖法としては体外受精法、顕微授精法がより効率の高い方法であると考えられ、今後精子の凍結保存法、体外受精法、顕微授精法、受精卵の凍結保存法、胚の卵管内移植についてさらに例数を増やし経験を積むことによってその方法を確立し、ニホンザルの実験動物化に向けた人工繁殖法として確立したいと考える。
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