研究概要 |
新たな乳癌高発・高転移モデル動物としてのJygMMTV感染BALB/cマウスの系統維持は、現在F7〜F8世代に達している。特徴として、80%以上の発癌率(平均発癌月齢12.0ヶ月)、乳癌は多発性で、組織像はtypeB腺癌、面疱癌、typeA腺癌、髄様顔腺棘細胞癌と多彩であった。肝転移の1例を除き、転移臓器は肺のみであり、転移率は平均68%(組織学的)、転移巣も微小粟粒状から小豆大まで様々であった。(乳癌基礎研究6:70-74,1997) 転移実験モデル作製として、担癌マウス肺転移組織片の皮下移植を8〜9代繰り返し、移植2〜3ヶ月で肉眼的観察でほぼ100%に肺転移を起こすいくつかの実験系を得ている。しかし、いずれも高転移性を示すものの、転移の程度には未だばらつきが感じられる。現在、この実験系を用いて、海藻類であるカニノテ、ナガコンブの抽出液について、癌の増殖、転移抑制作用を検討中である。 新たな乳癌細胞株の樹立については、まだ高転移能を有する細胞株の樹立には至っていないが、現在までに得られた細胞株について、皮下移植、静脈内注射などから転移実験モデルとしての有用性を検討している。 一方、共同研究者の広石は、ヘリトリカニノテ、ナガコンブ、オゴノリの各抽出液について、マウスメラノーマ細胞、マウスおよびヒト乳癌細胞を用いたin vitroでのassay系で、カニノテとオゴノリに強い増殖抑制作用を見出した。さらにメラノーマ細胞を用いてin vitroにおける抗腫瘍性を検討し、移植腫瘍の体積変化にはいずれも影響なかったが、ヘリトリカニノテとナガコンブに転移抑制作用そして担癌マウスの生存日数の延長(延命作用)を認めた。これら両抽出液の作用は、腫瘍増殖を抑制せずに肺転移を抑えていることから、接種した腫瘍細胞の臓器への付着を抑制しているのではないかと推察しているが、さらなる検討が必要である。
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