今回、「乳癌高転移モデル動物の作製と転移抑制物質の探索」というテーマで、科学研究費補助金を受け、癌転移に関する研究を実施した。 1. マウスおよびヒトの乳癌細胞株を用いて、種々免疫不全マウスでの乳癌転移能の比較を行った。移植宿主としてはヌードマウスに比べてSCIDマウスの方が優れていることを明らかにした。 2. Jygマウス由来乳癌ウイルス(JygMMTV)をBALB/cマウスに接種することにより、高率に肺転移を起こす新たな乳癌高発系マウスを作製した。兄妹交配を重ね、現在、F9〜F10代に至っている。F6代における乳癌発生率は91%、平均発癌月齢11.2ヶ月、肺転移率は72%(組織学的)である。 3. 転移巣組織片を皮下移植することにより転移実験モデルの作製を試みた。 肺転移組織片の皮下移植を繰り返し、移植2〜3ヶ月でほぼ100%の肺転移を肉眼的に観察できる実験系を得た。 また、リンパ節に転移した組織片についても同様に皮下移植を繰り返し、より安定したリンパ節転移モデルの確立を目指している。 4. 乳癌高発・高転移マウスの乳癌組織から新たな培養細胞株(BJMC338)を樹立し、その特性を検討した。この細胞株は、皮下移植による自然転移モデルとしての有用性は乏しいが、静注による人工転移モデルとしての有用性が示された。 5. マウスメラノーマおよび乳癌の転移実験モデルを用いて海洋生物資源(海藻類)から癌転移抑制物質の探索を実施し、ヘリトリカニノテおよびナガコンブに有意な癌転移抑制作用が見られた。 以上、癌転移研究・転移抑制物質スクリーニングに有用な乳癌高発系マウスおよびマウス乳癌細胞株(BJMC338)を作製するとともに、海洋生物中にはカニノテやナガコンブといった癌転移に有効な藻類が多数存在していることを明らかにした。 今後も乳癌の皮下移植による自然転移モデルの確立、そして、さらなる癌転移抑制物質の探索を続けていく考えである。
|