脳などの神経回路網における生体情報処理の仕組みを細胞レベルで調べるため、本研究では、64の素子からなる微細電極アレイ上に大脳皮質組織の切片および単離した神経細胞の培養により神経回路を形成させ、特定の培養条件下で自発的に発生するバースト波や、外部刺激を与えた場合の応答に関し、その空間的および時間的パターンを解析した。脳波質培養切片については、自発的発火の時空間パターンの観察が加算平均無しで可能であることを示し、大脳皮質の層構造に対応した活動の発生、伝搬の様子を可視化することができた。それにより、中層部分にバースト発生部が存在する可能性を示唆する結果が得られた。 単離培養神経では、培養開始から数十日後まで自発的発火のパターンを観察し、神経回路の成長につれて自発的発火の同期性と規則性が変化する様子をより詳しく調べることができた。さらに各種の阻害剤等の投与と組み合わせた解析によりこれらの発火パターンの変化がシナプス受容体の成熟度と関係があることを示した。また、単離培養細胞の神経回路に電気刺激を与え、多点計測で得られた応答波形から、電極間の結合状態と興奮の伝搬経路を求め、神経回路網の構造同定の可能性を示すことができた。 今回、単離培養神経については、成熟した神経回路での構造推定を行ったが、今後は、発達の各段階において同様な解析を行い、神経回路が成長していく様子を捉えられるか検討したい。また、特定の位置での刺激を与えながら、成長させた場合の神経回路の形成にどう影響するか、などについて検討し、将来的には人為的な神経回路形成の制御の可能性を追求してみたい。
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