網膜双極細胞の脱分極時の伝達物質放出は比較的持続的に生じる一方、双極細胞から入力を受けている神経節細胞は一過性の光応答を示すものと持続性の光応答を示すものとに分かれる。双極細胞の軸索終末部にはGABA受容体が高密度に依存していることから、網膜内GABAを介するネガティブフィードバック機構による時間微分の実現が示唆されていたが、内在性GABAによって時間微分が実際に実現されうるという証明は行われていなかった。本研究ではコイの網膜のスライス標本を用い、近年開発されたスライスパッチ法を神経節細胞に適用して、時間微分における網膜内在性GABAの役割について調べた。GABA受容体の拮抗剤であるピクロトキシンを投与し光照射したところ、神経節細胞の一過性の光応答が部分的に持続性に変化した。同様の実験を双極細胞についても行ったが、双極細胞の場合の光応答の時間経過はほとんど変化しなかった。したがって、内網状層のGABA受容体に内在性GABAが作用することによって時間微分機能の一部が実現されていることが示された。また、神経節細胞によっては、GABA受容体阻害によって光応答の時間経過だけでなく振幅も増加したことから、光強度が変化しないときにもGABAが双極細胞に常時入力していることも示唆された。ただし、GABA受容体をほぼ完全に阻害した条件下でも神経節細胞の光応答が完全には持続性にならなかったので、時間微分の実現においてはGABA系以外の機構の関与も考えられる。今後は、神経節細胞の樹状突起や細胞膜の性質と時間微分との関係の有無について調べる実験を行う予定である
|