複合視覚刺激を使ったgo/nogoタイプの選択的注意課題を遂行中のニホンザルの前頭前野から、単一ニューロンの活動を記録した。この課題では、複合視覚刺激の色に注目してgo/nogo反応を行う条件と、動きに注目する条件とからなる。昨年までの研究から、この課題遂行中のサルの前頭前野のニューロンには、特定の視覚次元に注目しているときにのみ、go刺激とnogo刺激に対して異なった応答を示すもの(色go/nogoニューロンと動きgo/nogoニューロン)と、注目する次元にかかわらず、go/nogo刺激にdifferntialな応答をするもの(色&動きgo/nogoニューロン)があることがわかっている。今年度は、前頭前野内の行動的意味の形成に関わるメカニズムについて調べるために、これら2つのタイプのgo/nogoニューロン(色go/nogoニューロンと色&動きgo/nogoニューロン)の前頭前野内での分布・ニューロン応答の性質を比較検討した。色go/nogoニューロンが集中的に記録されたのは、側頭連合野と密接な線維連絡を持つ主溝より下側の領域(46野の腹側部と12野)であり、色&動きgo/nogoニューロンが記録されたのは、主に、前頭前野からの出力領域と考えられている弓状溝領域と弓状溝周辺の運動前野からであった。刺激に対する応答の潜時は、有意に色go/nogoニューロン(109ms)の方が、色&動きgo/nogoニューロン(248ms)より短かった。一部のニューロンについては、刺激を記録半球と同側に呈示した場合と反対側に呈示した場合の応答の比較を行った。その結果、色go/nogoニューロンの約7割(特に反対側)が、一方の視野に呈示された刺激に対してのみdifferentialな応答を示したのに対し、色&動きgo/nogoニューロンの8割は、どちらの視野に呈示された刺激に対しても同様にdifferentialであった。以上の結果から、前頭前野における行動的意味の情報処理は、階層構造を持つことが示唆された。
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