研究概要 |
本研究の大きな目的は、聴覚系の周波数及び時間処理能力と音声言語知覚能力との関連を検討することにより、難聴者の聴覚特性に応じた補聴システムの開発を目指すことにある。本研究では特に、V_1CV_2環境(母音_1-破裂子音-母音_2)におけるCの有声・無声判断に及ぼすV_1の継時マスキング効果について、以下の2つの課題について検討した。1)周波数領域の特性である聴覚フィルタの過渡特性(リンギング)の影響について、2)V_1による継時マスキングは、末梢レベルのみでなく高次中枢レベルでも影響しているかどうか、について明らかにすることを課題として実験を行った。このうち今年度に実施できた実験は、課題1)に関するもので、課題2)について実験デザイン立案にとどまっている。今年度の成果は以下の通りである。 仮説:V1の基本周波数が低いほどCを無声音と知覚するためには長いSI(V_1-C間の無音時間)が必要となる。 方法:/apa/環境において、V_1の基本周波数(F_0)を3種類(70,150,300Hz)設定し、各F_0においてCV_2が/pa/として知覚される最短のSIの長さを測定した。V_2の基本周波数はV_1と同じにした場合と、異なる場合の2条件とした。 結果:V_1とV_2のF_0を一致させた条件では、F_0が低いほどCの無声判断に要するV_1-C間のSIは長くなる傾向が認められ、仮説が検証された。一方、V_1とV_2のF_0が異なる条件では、その組み合わせによっては、V_1の継時的な影響は認められない場合もあった。このことは、V_1とCV_2が聴覚的に分離されて処理されている可能性もあり、より高次過程の関与が示唆された。
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