岡山県真庭郡勝山町神庭の滝付近に生息するニホンザル餌付け自然集団を対象として、幼少期に母親を失ったみなしご雌の子育て行動を観察し、みなしごでない同年齢の雌の子育て行動と比較した。 みなしご雌の多くは、そうでない雌に比べて身体の成長が遅く、体格が小さい(これは幼少期に母親を失ったことが栄養的欠乏につながったことや、母親がいないことによる心理的ストレスのためと考えられている) 。みなしご雌の子育て行動をそうでない雌の子育て行動と比較すると、近接行動や身体接触行動など、親和的行動の量においては大きな差はないが、子どもに対する攻撃行動の量が多いという特徴が認められた。また、攻撃行動の質においても、母親のいる個体が、子どもに対して威嚇の表情などの比較的緩やかな攻撃行動を示すことが多いのに対し、みなしご雌の攻撃行動は、たたく、つかむ、かみつくなどの、身体接触を伴うような、どちらかというと強度のものが多かった。このような子育て行動におけるみなしご雌とそうでない雌の違いは、幼少期に、自分自身がどのような行動を母親から受けていたか、ということにある程度起因すると考えられ、母親とどの程度の期間一緒にいたか、あるいは自分の発達段階のどの時期に母親を失ったかということとの関連を調べることが新たな関心事となる。子どもの側から見てみると、みなしご雌の子どもは、そうでない雌の子どもに比べて母親から離れようとする行動の出現が早く、また、母親から離れた場所での採食行動もより多く観察され、母親の行動の違いによって、母親からの独立の過程が加速されているのではないかと考えられた。
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