研究概要 |
瞬間呈示法により,主観的輪郭知覚の微小生成過程における図形手がかりの作用を検討した.Rock & Anson(1979)により指摘された2種類の図形手がかりのうち,不完全性(incompletion)の強度を体系的に操作するため,Parks(1990)を参考に,誘導図形要素の左右対称軸の本数を異にする4種類の刺激パターンを作成した.それぞれのパターンの図形要素がもつ対称軸は0本,1本,2本,4本であり,対称軸が多くなるほと図形要素の不完全性が小さくなる(すなわち,より自己充足した完全な図形となる)ため,不完全性の作用が有効になる微小生成過程の後期段階でその影響が現れると推測された.一方の連続性(alignment)手がかりについては,主観的輪郭の一部を構成する実在エッジの長さおよび物理的連続性を統一することで,各パターンでの強度を等しくした.実験では,タキストスコープを使用し,これらのパターンを10,30,50,70,100,150,200,300msの8種類の呈示時間でランダムに呈示し,各観察試行において主観的輪郭の明瞭度評定(0〜10の11段階)を行った.その結果,図形要素の対称軸が多いパターンほど明瞭度評定値の全体的な水準は低くなり,通常自由視での観察結果と合わせ,図形要素の対称軸の本数で不完全性の強度わ変化させる刺激操作方法の妥当性が確認された.また,呈示時間の関数としての評定値の変化はいずれのパターンにおいても単調増大傾向となり,2種類の図形手がかりの作用潜時の差(高橋,1991)を反映する明確な特徴は見出せなかった.本実験結果を踏まえ,今後の課題として,数段階の強度の不完全性と連続性の掛け合わせによる多数種類の刺激パターンを作成し,それらにおける主観的輪郭知覚の微小生成過程を分析することにより,両図形手がかりの相互作用の様相をより詳細に検討することの必要性が示された. 主観的輪郭 微小生成過程 瞬間呈示法
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