本研究では政治的疎外意識の認知心理学的メカニズムを解明するために、大学生を対象とする質問紙調査を実施した。調査は1995年7月に639名の学生を対象に実施された。 この調査の結果から得られた主な知見は以下のとおりである。(1)個人の認知機制により、集団レベルで、政治的関心に関する「意見分布に関する無知」が認められた。(2)個人の認知的機制により、個人レベルで、政治的関心に関する「フォールス・コンセンサス効果」が認められた。(3)意見分布認知を通して形成・維持されう個人の社会的アンデンティティ(政治的関心について自己が当該社会での少数派か多数派か)によって政治的発話が阻害され、パーソナルな政治的コミュニケーションが起こりにくくなっている可能性が高いことが示唆された。(4)自由回答法によって大学生の政治的クロニシティを測定した結果、否定的な「政治意識・状況評価」や「政治行動」に該当する回答が非常に多く、大学生層における政治的疎外意識の根深さが再確認された。 さらに、メディア接触度と政治的クロニシティと属性によって政治的知識の量を説明する重回帰分析を行ったところ、知識量がテレビや新聞への接触頻度と強く関連しているだけでなく、政治的関心の高い層では、否定的な政治的クロニシティの有無と知識量とが強い正の相関を持つこともわかった。こうした結果は、情報に接触すればするほど政治的関心と否定的疎外意識が強化されるという「政治的コミュニケーションの逆説」を明らかにしたものであると考えられる。
|