本研究においては、規範意識の構造に関する世代間比較研究を通じて、道徳的社会化に関する「コミュニケーション・モデル」の検討を行った。その結果、主として次のような経験的知見が得られた。 1.規範意識の構造的発達は、教育年数や学校歴などに示される認知的能力とほぼ並行関係にあり、特定の規範の選好(内容)を示すものではないということ。 2.学生の規範意識の構造的発達は、学校歴ばかりでなく、親の発達レベルとも一定の相関関係を持つことが確認された。 3.構造的発達を世代間で比較した場合、両者の発達レベルの差異はほとんどみられないが、選好する規範内容という点では、大きな相違がみられた。すなわち、脱慣習的レベルへの移行が、親世代では性別分業にもとづく規範意識からの離脱によって特徴付けられるのに対し、子供世代では快楽主義的傾向を伴うものとなっていた。 これらのことから、道徳的社会化の過程が、たんなる「価値伝達」によるものではないということが明らかになった。しかも、それは、同世代・異世代のコミュニケーションにおいて提供される構造的要素ばかりでなく、内容的要素も資源としながら、進行する過程であることがわかった。
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