今年度の目的は主に次の二つの目的だった。1、『菊と刀』に関する主な第一次資料をデータ・ベース化すること(これは重要と思われる資料をスキャナーによって完全データ・べ-ス化することを含む)と、2、ル-ス・ベネディクトの『菊と刀』についての誤解や迷信をとりのぞき、第一次資料にもとづいた新しいベネディクト研究を展開すること。 第一の目的に関しては、ベネディクトが米国戦時情報局に所属している間に書いた主な覚書やレポートをスキャナーでコンピュータ入力し、内容チェックも済ませ、完全データ・ベース化した。そして、アメリカのVassar Collegeで保存されている、ベネディクト自身が残した第一次資料の全体の中から『菊と刀』に関係すると思われる資料をピックアップし、目録を作った。また、情報局の海外戦意分析課で書かれた日本関係レポートのリストを、合衆国公文書館で保存されている資料から作成した。以上のデータ・ベースをもとにベネディクト資料のカタログをまとめ、簡単な報告書を作った。これで、『菊と刀』関係の資料が明らかになり、このカタログはベネディクト研究の進展に役立つと思われる。 第二の目的については、ベネディクト研究のそれぞれの様相を体系的に研究し、これを国内外において発表している。具体的に、日本におけるベネディクト誤解をリストアップし、その批判を行っている。また、アメリカ側におけるベネディクト研究における弱点も明らかにし、日本とアメリカにおけるベネディクト研究の共通点と相違点を論文で論じている。そして、学説史的なアプローチからベネディクトの人種差別についての研究と日本研究とのつながりを他の論文で明らかにし、以上の総合的な成果は英文論文として上のカタログに含まれている。
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