平成7年度の奨励研究(A)『近代日本における文学部の教育内容とその社会的機能』は、以下の4点を中心として考察を進めてきた。すなわち、(1)「文学部」の教育理念について:「国家ノ須要」な「実学」主義支配の風潮の中での「文学(部)」創設の理念と目的。加藤弘之(東大総理)、外山正一(東大初代文学部長)、坪内逍遙(早稲田)、井上円了(哲学館)など当時の文学部関係者の「文学(部)」観の解明。近代日本の大学制度に大きな影響を与え、そのモデルとされたドイツ大学の「哲学部」との比較。(2)人材の吸収と選抜-入学者について:セクター別にみた文学部入学者の社会的特徴(出身地域・出身階層・教育的背景)。漢学を身分文化としていた旧支配層の士族層と文学(部)との関係。実学主義と結びついた立身出世主義が風靡する中で、文学部を志した青年層の心情と論理。(3)「文学(部)」の専門的知識について:「文学(部)」を構成する哲学・史学・文学各々の学問の制度化を担った教授集団の分析。明治以降否定された「漢学」との連続と断絶。各大学(専門学校)での教育内容・方法・卒業論文制度などの相違。各ディシプリンにおけるクリークの成立と消長(特に、京都学派の形成)。文学部における学問研究と修養主義-教養主義との関係。(4)人材養成と配分-職業集団との関係:文学部出身者の役割行動-官学セクター(帝大文学部)および私学セクター(早稲田・哲学館・國學院)出身者の就職先とキャリア・パスの比較-研究者か教養人か放蕩者か、の諸点である。 研究成果の一部は、第47回『日本教育社会学会』において「近代日本おける『文学部』の機能と構造-人文科学・人文主義的教養の再検討-」、また『東京大学大学院教育学研究科紀要』(第35巻)に「わが国における『文学部』の機能と構造(1)-帝大文学部の教授集団の分析を中心として-」として発表した。
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