本研究は四国遍路を中心に、巡礼の現代的変容を検討することを目的とした。そのために、四国四県を中心に現地調査が行われた。 遍路における変容の最大のものは交通機関の変化であって、もっぱら徒歩によっていた以前の遍路が、マイカ-や団体バス中心のものとなり、その巡礼の宗教性が観光旅行と混淆してきていることが明らかになった。それは例えば、宿泊地が観光ホテルであったり、巡礼の合間に名所の観光が組み入れられたりするところに見られるし、団体ツアーへの参加者の意識も変化してきている。 しかしその一方で、徒歩による遍路には、巡礼の純粋性がむしろ付与されてきており、その意味が大きく見直されてきてもいる。その中には、会社生活に疲れて、人生の意味を見直そうと遍路を行っている人や、定年という区切りに行う人など、現代社会における「人生の意味への問いかけ」の通過儀礼という側面が顕著である。 現代の高度にシステム化された社会は、その成員に人生の意味を見失わせ、それ故自己発見のための様々なセミナーや宗教などを隆盛させているが、遍路もそうした心理療法的側面を多大に有している。そして、以前よりは廃れたとはいえ、遍路道周辺の人々の「おせったい」の精神、巡礼者への援助の心が巡礼者に大きな影響を与え、生きる力を活性化させていることが明らかになった。 こうした四国遍路をめぐる状況はどこまで四国独自のものなのか、あるいは日本国内の他の巡礼と、ひいては外国の巡礼とどこまで共通点を持ち、どこが異なっているのかといった比較研究は今後の課題としたい。
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