北部九州を中心としながら、福岡県から鹿児島県にいたる九州各地の弥生土器と大型甕棺の分析を行った。各地の資料の収集を行い、それらの肉眼での形態・調整法等の観察、顕微鏡を用いた微細特徴の観察、蛍光X線分析による化学特性の把握を行った。また、顕微鏡による土器胎土の岩石学的観察も補助的に行った。それらをデータベース化し、多変量解析等も用いつつデータ解析を行った。 その結果、大型甕棺は日常土器と同様、各集落あるいは集落群という狭い範囲で形態や胎土の特性にまとまりがあるため、生産-消費はその範囲をこえるものではないということが判明した。従来、大型甕棺が専門工人集団による広域にわたる供給という考えも強かったが、ここでの成果はそれを否定する結果を導くものである。これにより、従来不明な点が多かった弥生時代の土器の生産のあり方に実証的に一歩せまることができたといえる。 さらに、甕棺は多くは上下1セットで一対ずつ製作されたものと推定された。大量生産ではなく1回1回製作されたことは、葬送儀礼に関連した甕棺製作の契機を暗示するものである。 排他性の強かった、考古学的形態分析・胎土の機器分析・胎土の岩石学的分析の3者を合わせ用いることによって成果をあげることができた。その成果は甕棺製作の契機やその儀礼的側面などを再認識することにつながった。したがって、このような方法を今後もすすめることによって、新たな考古学的議論の地平を広げることができると確信した。
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