本年度は、教関係聞書類を中心として、以下の諸社寺、所蔵機関に赴いて、実地調査を行った。 1、京都・仁和寺 2、京都・高山寺 3、奈良・東大寺図書館 4、横浜・神奈川県立金沢文庫 仁和寺においては、「金剛界抄」守覚法親王筆写本、高山寺においては「蓮實抄」實叡書写本、東大寺図書館においては五教章類集記、神奈川県立金沢文庫においては信種義聞集記を中心に以下の観点から調査、分析を行った。 (1)成立に関与した学僧の宗派、学統の確認及び事績の検討、 (2)資料の内部構造の特徴と表記形態の分析、 (3)ヲコト点等、訓点の加点状況の考察、 (4)注釈形式及び用語の特徴の記述 その結果、特に、東大寺図書館蔵五教章類集記において国語学的観点からみて極めて注目すべき特徴のあることが判明した。 第一、五教章類集記は、これまで発見されていなかった高山寺開祖・義林房喜海の講説の聞書を基盤とするものであること。 第二、義林房喜海の講説聞書は、明恵上人の講説の聞書と比較すると、オノマトペ、声点語彙、中世語的言語事象の現出度が低いが、五教章類集記をさかのぼる解説門義聴周記、起信論本疏聴集記等よりも現出度が高い。 第三、声点語彙が非常に少ない。 以上の成果を踏まえて、今後、各宗派、学派、寺院間の聞書類の言語的特質の相違の要因の解明を上記の情報をデータベース化することによって目指し、現在も継続中である。
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