森川竹〓の詞学の淵源、及び『詞律大成』へと到る発展の過程を跡づけるため、主に森川竹〓が主宰した雑誌「鴎夢新誌」に掲載された「詞法小論」に注目して研究を行った。「詞法小論」は「鴎夢新誌」第三三集(明治二一年一0月)より第六五集(同二四年一二年)まで、二六回にわたって連載されたもので、すべて二五四調、一一四体について、詞牌名、文字数、詞体数、別名、平仄を示す黒白圏、詞作例等を列記した簡便な詞譜である。この「詞法小論」について、神田喜一郎博士は「大体は万紅友の『詞律』を抄録したもの」と述べられ、あまり高い評価を与えておられない。実は竹〓自身も「詞法小論」の跋に「就万紅友詞律中。挙其最易見者。以為例焉。」と記しており、清・万樹の『詞律』を多く参照したことが知られる。だが今回、「詞法小論」の内容を仔細に検討したところ、『詞律』とは異なる部分もかなりあって:「『詞律』を抄録したもの」として簡単には片づけられない問題を含んでいることが明らかになった。そこで、「詞法小論」を正当に評価するために、「詞法小論」の内容を既存の諸詞譜の所説と詳細に対照してその来源を尋ねるという作業を行っていった。その成果の一が「詞法小論小箋(-)」である。この作業は、今後も継続して行っていきたい。さらに、森川竹〓の詞学の淵源を知る上で見逃せないのは、師である森槐南の影響である。この槐南の詳細な書入本を含む大部な詞学関係書籍が、中田勇次郎先生より立命館大学に寄贈されるのを知ってその調査を進め、まず基礎作業として目録を作成して公刊した。それが「詞学文庫分類目録」である。この文庫中には、日本はもちろん中国でも稀覯に属する明清期の詞譜や詞選が多数含まれており、竹〓が参照したと思われる詞籍もある。今後これらの書物を詳細に検討し、竹〓の詞学の全体を明らかにしていきたい。
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