研究概要 |
まず,基体語から派生語へ項構造がどのように継承されるのかという問題については,S-selectionに関わる情報だけではなくて,C-selectionの情報も派生語に継承されていると考えなければ説明がつかないデータが見つかったので,継承問題を解くにはFanselow(1988)のように意味論だけに依拠するのではなくて,形態/統語論からの考察も必要不可欠であることが判明した。この知見の下では,Chomsky(1986)のCSR仮説もそのままのかたちでは支持できなくなるので再検討を行う必要がある。具体的なデータとしては,心理動詞を基体とする派生形容詞およびその派生形容詞を含む複合語を観察してきたが,それらが全て非対格の項構造を持つとするRoberts(1989)等の分析に対する反論を準備している。その際,非対格性に関する初めての全体的な研究であるLevin & Rappaport Hovav(1995)も参照する。 次に,語彙概念構造/項構造から統語構造への写像問題については,項構造にたいする普遍的な制約は相構造にのみ基づいていると主張するTenny(1994)とそうではないとするJackendoff(1994)の間の論争において,そのいずれが妥当であるのかを査定している最中である。この査定プロセスのなかで,イベント構造を仮定するPustejovsky(1995)の分析を統合する方法を模索している。 最後に,文法モデル全体における形態論の位置付けに関しては,語彙部門だけでなく統語部門にも語形成を認めてそれぞれに共通の形態理論が適用されるとする影山(1993)のモジュール形態論,S-構造とPFの間に形態構造(MS)を設けるHalle & Marantz(1993)の拡散形態論,そしてSpell-Outの後に形態部門を位置付けているChomsky(1995)のミニマリスト・プログラムのいずれがより経験的に正しいかを比較検討してみるのが今後の課題である。
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