本研究費補助金交付期間内における研究の目的は、今日参照することの可能なサミュエル・リチャードソンの出版書誌と同時代のその他の書籍を研究することによって、彼がいかに出版というメディア活動にかかわり、またそれが同時代以降の文学的な想像力にどのような影響を及ぼしえたのかを明らかにすることにあった。リチャードソンの出版書誌については、京都大学附属図書館が所蔵するマイクロ・フィルムのコレクション“The Eighteenth Century I"を閲覧することによって、ある程度まで確認できた。また、同時代のその他の文献に関しても、同コレクションおよび東京大学附属図書館と山形大学附属図書館が所蔵する近代初期以降英国で出版された雑誌のマイクロ・フィルムのコレクション“The Early English Periodicals Collection"を閲覧することによって、現在読むことの困難な文献を参照することができた。ただし、これらのコレクションに含まれる書誌は膨大なものであり、今年度中との時間的制約のため十分に詳細な検討ができたとはいえない。この点に関しては次年度以降の課題としたい。そこで、今年度交付期間内における研究の成果は以下の論文にまとめた。「『ノ-サンガー・アビィ』と 幻想の枠組み」(梅田倍男編『ことばの地平-英米文学・語学論文集-』英宝社、1995年、187-203頁)において、18世紀の後半の書籍の氾濫が文学的想像力に与えた影響を検討する一つのテスト・ケースとして、リチャードソンから大きな影響を受けたジェイン・オースティンを取り上げた。また、「二重化するカノン-ジョンソンのなかにリチャードソンを読む-」(日本ジョンソン協会編『日本ジョンソン協会設立30周年記念論文集』雄松堂出版、1996年5月出版予定)において、サミュエル・ジョンソンの『英語辞典』のなかのリチャードソンの小説『クラリッサ』からの引用文を検討することによって活字印刷出版というメディアの問題を論じた。
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