1)聞き手の知覚状態を専用的にマークする指示詞をシンハラ語とタミル語が有し、その機能を中称詞が果たす。それに対して、ヒンディー語にはそのような指示詞はない。シンハラ語とタミル語には、文脈に導入済みの要素が聞き手の知覚に関与する場合に中称詞で指示する用法が存在する。 2)シンハラ語とタミル語の中称詞は聞き手の知識状態を専用的にマークする。文脈指示において聞き手の知識状態を考慮に入れない場合には、シンハラ語では中立的な文脈指示を専門的にする文脈指示詞が、タミル語では記憶指示の用法を有する遠称詞が用いられる。ヒンディー語において聞き手の知識状態を考慮に入れる必要があるときには、遠称詞が用いられる。これは、話し手と聞き手の視点を区別する対立的視点の現れであると考えられる。 3)シンハラ語において、中称詞の果たす重要な機能がメタ言語的な機能である。メタ的用法とは、相手の発話をオブジェクトとして取り上げ、それに対してコメントを加える用法である。メタ的用法は、対話において話者交代が起こるときに典型的に見られ、その際、対立的視点が介在している。タミル語の中称詞にも、シンハラ語と比較して頻度は少ないが、メタ的な指示用法が存在する。
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