研究概要 |
本研究は,文献調査(司法統計の分析を含む)および来日中のアメリカの裁判官・弁護士・法学教授の面接調査に基づく。研究の全体は以下の3部に分かれる。 I.裁判所-アメリカの裁判所制度は,連邦裁判所と各州裁判所とに分かれるが,その間の役割分担および相互作用について研究を行った。裁判官数・訴訟件数において規模の小さい連邦裁判所では,ここ10年ほどは,民事事件に関しては安定した処理を行っているが,刑事事件ではことに薬物事犯の厳罰政策を反映した負担の急増ゆえに,システム全体の運営に影響が出てきている。大量・多様な事件を扱う州裁判所においては,訴訟負担軽減の目的で中間上訴裁判所を設ける州が増え,同時に80年代の不法行為制度改革が行なわれた。 II.裁判官-州における選任方法に重点を置いた。アメリカで伝統の裁判官選挙もなお利用されているが,諮問委員会による適任者推薦に基づく知事の任命と数年後の州民審査とを組み合わせたメリットプランも徐々に利用されてきている。この方式もなお改善の余地が指摘されているものの,おおむね好評である。 III.弁護士-養成・専門化・倫理について研究を行った。弁護士倫理の実現手段としては,(1)弁護士懲戒手続,(2)弁護過誤訴訟,(3)裁判所による制裁がありうるが,(3)については連邦民事訴訟規則11条の1993年改正で,裁判所における弁護士の訴訟活動が十分かつ責任をもった準備に裏付けられる目的の法整備が行われた。また弁護士広告については1995年の合衆国最高裁判所判決で,原則自由とはいえ弁護士の名声を貶める事故被害者対象のダイレクトメールを30日間禁ずることも可能であるとされた。
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