競争政策の環境保護政策への対応状況に関する比較法的研究の結果、次のことが明らかになった。 北米自由貿易協定(以下、「NAFTA」は、環境保護については、同協定の措置を環境保護と一致する方法で実行することを求め(前文)、他の環境保護条約と同条約が一致しない場合にはNAFTAが優先されるとし(104条)、環境保護のための国境規制は許されるとし(2101条)、第7章および第9章において、健康、安全、および環境保護のための生産物基準のための貿易規制(主として輸入規制)を課す加盟国の権限を認める。さらに1114条は、加盟国は、国内環境基準を緩和することによって投資を奨励すべきでないと定める。ただし、これらの原則はガットのパネル解釈の借用であったり、拘束力のない努力規定であったりするため、さほど先進的なものとは言えない。また、NAFTA環境保護附属協定により、加盟3カ国間で環境保護に関する協力が行われている。競争政策については、NAFTAは全体的に競争維持を基本的政策としている。とくにその第15章が、NAFTAの競争政策を定める。そこでは、加盟国の1つであるメキシコにおける競争法の空白を顧慮して、5つの最低目標が示されている。すなわち、競争法問題の優先、メキシコに対する競争法制定の要求、競争法の施行のための非公式の3カ国協力・協議メカニズムの形成、独占体・国営企業の競争行動に対する規律の維持、加米自由貿易協定において設立されたアンチダンピング・対抗関税に関するワーキンググループの維持。これらの目標は達成に向かっており、例えば、メキシコにおいて競争法が制定された。しかし、NAFTAがEUのような広範な経済的統合を目指すわけではなく、したがって第15章は、競争維持政策の実行を基本的に各加盟国の国内法に委ねている。したがって、NAFTAの枠内では、競争政策と環境保護政策とが抵触する局面は限られており、現在までのところ、両政策の調整が求められた事例は見あたらない。
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