第一に、半導体摩擦の事例については、政治過程を再構成して、全体像をつかむことができた。その際、新たな資料、情報が入手できたため、重要でありながらも従来不明であった、幾つかの事実関係を解明できた。また、ゲームを枠づける構造的要素の重要性を確認した。半導体摩擦の政治ゲームは、自由貿易レジームが状況化して、これに対応して国内の政策アイディア、既存のアクター間関係が流動化し、構造的変化が生じているなかで展開したのであり、この構造的要素と政治ゲームとを関連づけて把握する必要が明らかになった。すなわち、貿易摩擦は単なる紛争ではなく、自由貿易レジームと国内政治体制の変容過程を構成するものだったのである。この点に関しては、国際政治学会の部会において、研究成果の一部を報告した。 第二に、コンピューター・ソフトウェア摩擦の事例について、資料、情報の収集を進めた。その結果、この事例についても、従来不明であった事実関係を確認できた。其れに基づいて、政治過程の全体像を捉える作業に着手した。 第三に、第一・二点との関連において、分析のための理論的検討を行った。関連文献を収集して、従来多用されてきた政策決定過程論(官僚政治モデル)を批判的に検討し、そのうえで新たな制度論、国際レジーム論の有効性を検討した。その結果に基づいて、事例分析のための分析枠組みを試論的に設定した。 第四に、以上の研究成果を踏まえて論文を執筆し、『金沢法学』に連載を開始した。第一回連載論文(序章、第一章)は、問題の設定、事例の位置づけ、自由貿易レジームの態様などを扱っている。
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