本研究においては、都市規模や東京大都市圏に関する既存の研究調査文献を整理した上で、東京大都市圏のような都市地域空間を念頭に、企業と住民を基本的な経済主体とするミクロ経済学による理論モデルを構築した。その中で、企業の生産関数には集積の経済性を、家計の効用関数には集積の不経済性をそれぞれ考慮し、人口集積による便益関数と費用関数を導き出した。 次に、理論モデルから得られた人口集積の便益関数と費用関数に対して、東京都心を中心とする半径50キロ範囲内の市(区)町村に関する人口一人当りの現金給与額と課税対象所得額および昼間人口密度などの統計データを用いて、計量経済学のウエイト付き最小二乗法により推計検証を試みた。その結果、人口集積による経済と不経済の効果を数量的に捉えることができた。さらに人口集積の指標である昼間人口密度の分布を都市からの距離に関するCubic-Spline型関数により推計し、その結果を踏まえて、人口集積による便益と費用を距離に関数として表現した。 こうして求められた東京大都市圏における人口集積の便益関数と費用関数を分析し、次のような新しい結果を得た。都心から30キロ以内の圏域では、人工集積による便益がその費用より大きいが、しかし、それ以外の圏域では、便益が費用より小さくなってしまう。したがって、各地点において便益が必ず費用を上回るべきというような社会的最適な視点からすれば、30キロ圏は東京大都市圏の適正な都市規模といえよう。また、30キロ以外の圏域についても人口集積による便益をその費用より大きくするためには、人口集積の分布と、それによる便益・費用の発生効果をうまく調製する政策が考えられる。例えば、その前者には企業立地の分散化による郊外部人口集積の向上政策があり、後者には通勤混雑の緩和による人口集積の不経済効果の削減などの政策がある堤言される。
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