報告者はこれまでフランス近代社会の成立過程を、「身分」と「富と知」との対立という観点から跡付けてきた。その検討が一段落したため、本年度は支配階層の属性としての「富」と「知」との対立如何という観点から近代社会の展開過程を検討することを開始した。当初はF=ギゾ-およびA=ティエールという二人の政治家の関係の中に、富と知との対抗を見て取ろうと考えたが、その後19世紀に関するフランス官報を入手できたので、現実の政治過程により接近すべく、七月革命(1830年)直後におこなわれた選挙関連法規の成立過程を分析することに集中した。 その結果、以下の諸点が確認された。第一に、同法則の真偽過程に参加した支配階層には「富」を重視する党派と「知」を重視する党派とが存在した。しかし「富」と「知」とは必ずしも明確に区別して理解されていたわけではない。第二に、支配階層の属性とその属性を正当化する理由とにわけて分析した場合、とくに後者において両党派の対抗関係が明白になる。したがって近代社会の内部においては「富」と「知」とは無矛盾的に併存していたわけではない。以上の点を検討の結果を取りまとめ、1996年2月に英文で成果を公表した。
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