本研究の目的は、わが国の様々な金融変数(貨幣集計量、短期金利、長期金利、金利スプレッドなど)を取り上げ、実体経済の動きと最も強いまた安定した関係にある金融変数を探ることである。 具体的に用いた金融変数としては、貨幣量としてM1、M2+CD、短期金利としてコールレート(RCALL)、長期金利としてはNTT債利回り(RNTT)と金融債利回り(RBD)、金利スプレッドとしては3種類の長短金利差(RNTT-RCALL、RBD-BCALL、RNTT-RBD)をそれぞれ用いた。実体経済の変数としては、実質GDPと実質投資を用いた。 分析手法として、本年度は特にグレンジャーの因果性テストを中心に検証した。 現在のところまだ途中結果ではあるが、かなり頑健な実証結果が得られた。検証期間を1964年から1993年までとした場合、実体経済と最も強い実証的な関係を持つ金融変数はわが国の代表的な貨幣集計量であるM2+CDであることが判明した。この結果は、基本モデルである3変数モデル(実体経済変数、物価上昇率、金融変数)における因果性テストの結果から得られたものである。これと同じ実証結果は、代表的な金利(RCALL)を含めた4変数モデルでも、また検証期間を1971年第3四半期以降-ニクソンショックにより変動相場制へと以降するためこの時点での構造変化を考慮した-に限定しても得られた。また金利変数を、レベルではなく一階の階差を取った場合も検証してみたが結果は同じであった。 この結果は特にアメリカの結果と対照的である。アメリカでは貨幣量(M2)の有意性はモデルに金利を含めた場合、そして特に70年代以降のデータに限定した場合、著しく低下することが知られている(全期間を通じて最も有力な変数は金利スプレッド)。わが国の方が、よりマネタリスト的な貨幣量重視の金融政策運営を支持する結果が得られた。 今後、さらに別の分析手法として外挿予測(out-of-sample forecasts)を用いた研究を行い、上記の実証結果の頑健性をさらに検証し、その成果を論文としてまとめることを計画している。
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