本年度は、実閉曲面の拡張された写像類群のコホモロジー、即ち写像類群の捩れ係数のコホモロジーの研究の部分で大きな進展があった。これは座標付きモジュライ空間の無限小的等質構造を用いた研究にも大きく益するが、総じて他の研究に時間を割く余裕はなかった。年度の後半は東大数理の森田茂之氏との共同研究となった。 (1)一般森田・マンフォード類の構成。第3種アーベル微分の写像類群での対応物をとりだし、それの巾に相対接束のオイラー類の巾をかけてファイバー積分することによって構成した。その際大変に愚直な形であるが群の対の相対コホモロジー理論を構築した。(のちに森田氏により、相対コホモロジー理論なしに構成することが可能になった。)この一般化は森田・マンフォード類とジョンソン準同型を統合する枠組みとなっている。一般森田・マンフォード類の幾何学的意味を明らかにすることが中期的な課題である。 (2)拡張された写像類群の安定コホモロジー群の計算。(1)の構成とは独立にE・ロイエンハ氏はホッジ理論などを用いた幾何学的考察とハーラー安定性定理により(境界なし)写像類群の斜交係数安定コホモロジー群を(自明係数をmoduloとして)決定した。報告者はこれにならいハーラー安定性定理を用い、ホッジ理論の代わりに群の対の相対コホモロジー理論を用いて(境界つき)写像類群の斜交係数安定コホモロジー群が、自明係数安定コホモロジー環上一般森田・マンフォード類を自由基底とする自由加群であることを示した。 (3)一般森田・マンフォード類の縮約(森田氏との共同研究)。一般森田・マンフォード類は曲面のホモロジー上の交叉形式による係数の縮約に関して閉じている事が分かった。応用として森田氏がジョンソン準同型を拡張することによって構成した写像類群の安定コサイクルがすべて(もともとの)森田・マンフォード類によって表わされることが分かった。
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