研究概要 |
1989年前後に数理物理学者Wittenによって提唱された三次元多様体の位相不変量は、結び目のJones多項式の発見に続き、結び目・三次元多様体論に大きな影響を与えました。これは、勝手なコンパクトリー群Gに対して、数学的には厳密とはいえない経路積分を用いて定義されるもので、現在では三次元多様体の「量子G不変量」と呼ばれています。G=SU(2)の場合は、Reshtikhin-Turaev、Kirby-Melvin、Lickorish、Kohno等の数学者によって、様々な角度から不変量が定式化され、実験に結び目・三次元多様体論への応用も進んでいますが、G=SU(n),n>2の場合は、Turaev-Wenzlがその存在を数学的に証明したのみで、具体的な応用を目標として実際に計算を実行する立場からすると、満足のいく形での定式化とはいえません。 本年度の研究では、結び目理論でよく知られている結び目・絡み目のHomfly多項式が、Hecke環上の汎関数を定義することに着目し、これを用いてHecke環のすべての極小巾等元を幾何的かつ具体的に構成したうえで、量子SU(n)不変量を極めて初等的に定式化することに成功しました。これにより、SU(n)不変量の性質を暗示する様々な具体例の構成が可能になり、さらにSU(2)不変量を用いた三次元多様体の種数や結び目の橋指数の評価も、そのままSU(n)不変量を用いた評価に持ち上げられることが判ります。
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