本研究課題において具体的な目標としていたことのうち、1.テ-タ関数の理論の偏極シンプレクティックトーラスへの一般化、2.1の結果の、リーマン面およびそのヤコビ多様体への応用、3.偏極シンプレクティック多様体のコホモロジーに関する消滅定理に対して、ある程度の結果と新たな知見を得ることができた。 1については、必ずしもケーラー的でない偏極に対しても、対応するテ-タ関数を定義できること、異なる偏極を用いて得られるテ-タ関数の空間の間には(ベクトル空間としての)同型対応が存在することが示された。実際、同型写像を2通りの方法で構成することができる。これらの間の関係を調べることは未達成であるが、同型のユニタリ性の問題等も含めて興味深い。なお、多少修正が必要だが、シンプレクティック・トーリック多様体に対しても同様の結果が得られると思われる。 2に関しては、リーマン面および偏極の退化という点に対しては、2次元閉多様体上の平坦G主束の同型類の空間(ただしGは一般のコンパクト単純リー群)を含めて統一的に扱うことができることがわかり、さらにG=U(1)の場合にはリーマン面の退化との関連がかなり明確に記述できた。 3に対しては、偏極シンプレクティック多様体の層係数コホモロジーについて小平消滅定理の拡張が成り立つことが判ったが、退化のないきれいな(中間)偏極を許容するものはかなり限られたものしかなく、応用上は、偏極に退化を許すあるいは滑層構造を持つシンプレクティック空間としての偏極まで範囲を広げて考察することが重要と思われ、今後の課題として挙げておく。 なお、J.E.Andersenも上記1、3の結果の一部を独立に得ていることをコメントしておく。
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