研究概要 |
カオス的振る舞いをする部分と比較的安定した振る舞いをする部分が交互に不規則に現れるような力学系は間欠カオス力学系と呼ばれている.M.Thalerは,反復によりカオスを生じるような一次元写像の力学系についてエルゴード理論の立場から研究し,ある場合にルベ-グ測度と同値なσ-有限不変測度の存在を示している.また,M.Thalerの研究の後,由利美智子らは多次元の写像の力学系を研究し,ある場合にルベ-グ測度と同値なσ-有限不変測度の存在を示し,μ(A)<∞(μは不変測度)となるような集合Aに対してエルゴード理論的な議論を行った.しかし,既存の研究では,μ(A)=∞となるような集合Aに関しては何らエルゴード理論的な議論は行われてこなかった。このような状況下で,私は,間欠カオスを生じるようなある特別なクラスの一次元写像の力学系のμ(A)=∞となるような集合Aに対して,エルゴード理論の基本的な問題である時間平均(Aへの軌道の滞在時間/経過時間)の極限について研究し,その極限の存在のための十分条件およびその極限値に関する結果を得ていた. 本研究では,購入した図書の活用,エルゴード理論の専門家との有意義な議論を契機として,最近成功した特別なクラスの一次元写像に対する結果を,興味深い例を含むより一般的な一次元写像に対するものに拡張することができた.この成果の大部分を論文の形にまとめ専門雑誌に投稿中である.また,先に述べた時間平均の極限値が定まらず振動するような条件が得られつつある.さらに,間欠カオスがみられる多次元の力学系に対しても,多次元の力学系の専門家と議論を行い,同様の極限について研究成果を得る糸口を得た.
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