ハドロン及びハドロン多体系の諸性質を、クォークやグル-オンというQCDのより基礎的な自由度を用いて記述する試みは、長い間多くの研究者によってなされてきた。その結果、低エネルギー領域では、多くの場合動的な自由度として有効質量を持つヴァンレンスクォークのみを考えるだけで充分であり、クォーク反クォーク対や動的なグル-オンの寄与をあらわに考えなくとも、観測量がほぼ説明されることが判っている。 しかし、このような模型には幾つか問題点がある。そのうちの一つがU_A(1)問題であり、η-η^1中間子の質量差を計算すると、観測値よりも2百MeV程度小さい値になってしまうことである。グル-オンの幾何学的配位(インスタントン)と、互いにフレーヴァー1重項に組んでいる軽いクォークとの結合を考慮すると、このU_A(1)問題を解決できる事は良く知られていが、中間子質量に大きな影響を与えるこのインスタントンの効果が他のバリオン系にどの様な影響を与えるかは、あまり調べられてはいなかった。 この我々の研究により、上記のクォーク模型にこのインスタントンに起因する有効相互作用を短距離の非摂動論的効果として導入すると、現象論的に要求される強すぎる1グル-オン交換力を弱められること、2核子系に見られる強いスピン軌道力と、正負パリティのバリオンの励起状態に共に見られる非常に弱いスピン軌道力を、同一のクォーク間有効相互作用を用いて説明できることなど、模型の予言力が大きく改善されることがわかった。また、G-matirxを求めてハイパー核におけるハイペロンのエネルギー順位を計算すると、同等な局所ポンテンシャルによる模型と短距離部分に差が現れることが明らかになった。
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