本実験のAg/Co系人工格子で、巨大磁気抵抗効果(GMR)が観測された。磁化測定では、Coあたりの磁気モーメントが純Coとほぼ等しかった。また、カ-回転角の大きさおよびスペクトルは、ほぼ純Coに一致した。これらのことは、フェルミ準位近傍のAg層のスピン偏極が小さいことを示す。また、Ag-L2吸収端でのX線磁気円二色性が観測されず、吸収曲線(XANES)にも顕著なwhite lineが観測されなかった。このことは、Ag層のフェルミ準位近傍での4d電子の状態密度とそのスピン偏極が小さいことを示す。以上から、Ag層でGMRを担う電子は4d電子よりむしろわずかにスピン偏極した5sまたは5p電子(Co層の3dとAg層の5sのs-d相互作用による)と考えられる。今後、Ag-L_1吸収端のX線磁気円二色性(Ag層の5p電子のスピン偏極を反映)を測定すれば事情がよりはっきりすると考えられる。
|