従来のモデルでは、ニューロンにおいて情報をコードしているのは平均発火率であり、それ以外の要素が情報をコードする可能性はあまり考慮されていなかった。しかしながら、最近行われた神経生理学の実験がきっかけとなって、ニューロンの発火の相関(同期、非同期)などに情報をコードすることが、ネットワークの情報処理の能力を質的に高めることが出来るのではないかと、関心を集めている。一方、周期的に発火しているニューロンが互いに弱く相互作用している場合、そのダイナミクスは位相という発火のタイミングを表現する変数により記述できることが知られている。 この場合、記憶すべきパターンの位相が一様ランダムな場合は、その臨界記憶容量は約0.038である事が知られている。しかしながら、現状では振動子ニューラルネットの基本的な性質は必ずしもHopfield Modelほど理論的に解明されているわけではない。典型的な振動子ニュートラルネットの振る舞いを理論的に解明する事は、その応用や生物学的な対応を考える上で重要である。 本研究では、主としてシナブス結合を一定の割合でランダムに結合の対称性を保ったまま切ったとき、その記憶容量や想起したパターンの質にどのような影響があるか、理論的に調べた。結果として、70%程結合を切っても連想記憶の能力はそれ程劣化しない事がわかった。また、簡単な数値実験はこの解析的な結果を支持している。最後にHopfieldモデルの場合を述べると、想起したパターンの質の変化は大差ないが、臨界記憶容量は0.14からほぼ直線的に0へ減少する。意外な事に、振動子の場合の方が結合を切ったときの想起能力の低下は少ないようである。また、非対称性を多少入れても、結果はそう変化しないことを数値実験により確認した。結論として発火のタイミングまで記憶した場合は、その絶対的な記憶容量自体は小さいものの、結合を切った時の性能の低下は従来モデルよりも緩やかであると言える。
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