時間領域の半古典論を用いることにより、カオスが存在することによるトンネル現象の諸性質を調べた。特に、一次元に周期的な外力が入った単純な系を、トンネルの効果を純粋に抽出できるような形に設計し、その性質を詳しく調べた。その結果、カオスが存在することによって生じる、従来知られていたトンネリングとは全く質的に異なる非可積分系のトンネルの機構“Chaotic Tunnleing"が明らかにされた。特に、(1)トンネリングによる遷移確率がカオスの存在によって著しく増大する、(2)トンネリングテイルに、複雑な干渉パターン、多段構造が発生する、(3)トンエル領域で確率が減少するのではなく、逆に増大することが有り得る、といった非可積分系特有な新しいトンネル現象が発見された。このようなトンネリングの詳しいメカニズムをすべて、複素古典軌道を用いた半古典論によって解釈することに成功した。トンネル確率の著しい増大は複素causticsの実面への接近、トンネリングテイルの複雑な構造は、プロパゲ-タに寄与するおびただしい数の複素軌道(Laputa軌道)の存在と、複素空間内におけるそれらの引き延ばしと折れ畳み機構(Laputa鎖)、などによってそれぞれ説明されることがわかった。さらに、以上の定性的特徴は、系の詳細によらず、力学系が非可積分性であることに起因することも明らかになった。また、複素古典力学を考える際に避けて通ることのできないストークス現象について、複素多様体の“木構造"を基にした、処理法に対する一つの作業仮設を提出し、具体的にそれが非可積分系のストークス現象の処理に有効であることを示した。
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