高分子鎖のダイナミクスに関しては希薄溶液・濃厚溶液・融液について、すでに多くの知見が得られている。それに対して、結晶性高分子の非晶相内での高分子鎖の運動は結晶相の存在という幾何学的制約のために非晶性高分子のそれとは大きく異なることが知られている。本研究では、結晶化速度が遅く時分割測定の可能なポリエチレンテレフタ-を対象として、融液から結晶化が進行し、高次構造が形成されていく過程で、非晶相に関係した誘電緩和スペクトルがどの様に変化するかを実時間で追跡し、同時に小角X線回析により、高次構造の変化を測定した。小角散乱装置は京都大学超強力X線室の点収束型小角散乱装置を用いた。誘電測定は10-2Hz-10^2Hzの範囲ではHP4284LCRメータを、10^2Hz-10^6Hzの範囲ではソ-ラトロンインピーダンスアナライザ1260を用いた。その結果、α緩和の誘電緩和強度の減少が十分に終わってから、はじめて長周期構造が出現することが明らかとなった。このことは、融液から高分子鎖が結晶相へ取り込まれて、高次構造が形成されて行く過程は融液からの結晶化と言う単一機構ではなく、高分子鎖のダイナミクスが十分に拘束をうけた状態を経て、はじめて高次構造形成が開始されるということを示唆している。
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