本研究の目的は土星リングに代表される惑星リングを構成する粒子集団の振る舞いを多体数値計算を用いて調べ、リングに観測される複雑な密度構造の形成・維持機構を明らかにすることである。この目標の下に、本年度は下記の研究実績を挙げた。 ・本研究の遂行に必要なリング粒子系専用の数値計算プログラムの開発を終了した。このプログラムは、リングの局所的領域のみを計算の対象とし、かつ約4000体という多数の粒子を計算に用いることによって、高い粒子数密度を持つリングを数値的に再現できる画期的な数値計算プログラムである。 ・土星のBリングを具体的な対象としてリングの密度構造形成の数値実験を行った。その結果以下の結論を得た。 1.リングの数密度がある臨界値を越えるとリングの動径方向に密度構造が形成される。 2.密度構造の有無を決定する臨界数密度は粒子集団の平均的な衝突速度に強く依存する。 3.粒子同士の重力相互作用を考慮しない場合にはこの密度構造は形成されない。 4.密度の濃淡は定在波的な振る舞いによって、振動する。その周期はリングのケプラー周期にほぼ等しく、波長は軸対称重力不安定の波長にほぼ一致する。 以上の結果からこの密度構造の形成が粒子同士の重力相互作用にその原因を持つことは明らかである。申請者は密度構造の形成と振動を粒子集団の重力不安定による粒子の集合と、中心惑星の重力によりもたらされる粒子同士の衝突による粒子集団の拡散の繰り返しと考えモデル化を行った。この成果は現在学術雑誌への投稿準備中である。
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