我々はMUレーダーを用いた電離圏E及びF領域FAI(Feild-Aligned Irregularity)の高レンジ・時間的分解観測を実施し、磁気赤道域及び極域のみならず中緯度域においても従来想像されていたよりもはるかに活発・多彩な現象が存在することを明らかにしてきた。我々が初めて明らかにした現象として、主に夏季の夜間、100km以上の高度に現れてエコー強度が周期5〜10分程度で変動する、いわゆる「準周期エコー」がある。この現象の解釈として、研究代表者は、Woodman博士やTsunoda氏らと共同で、中性大気中の短周期の大気重力波によるスポラディックE(Es)層の変形によるとするモデルを提唱している。今年度、本研究では以下の点について研究を行った。 1.大気重力波による沿磁力線イレギュラリティ変調の研究 1995年6月〜8月の期間、MUレーダーを用いた電離圏E及びF領域FAIの同時多ビーム・ドップラー観測を実施し、F領域FAIの振舞いとE領域FAIの関連について研究を行った。F領域FAIがE領域FAIの活発な時期に現れる傾向があること、両領域におけるFAIエコーのドリフト速度が比較的良く一致することを見出した。 2.大気重力波によるスポラディックE層変調モデルの構築 中性大気風速及び電離圏電場による簡単なスポラディックE層の生成シミュレーションを開発し、中性大気に大気重力波を仮定した場合、生成されるスポラディックE層に高度変調パターンが生じることを示した。今後の改良によって、現在提唱されている準周期エコー発生メカニズムの検証が可能になると考えられる。 1996年夏にロケットとレーダーによるE領域FAIの総合観測(SEEK; Sporadic-E Experiment over Kyushu)が予定されている。本研究で開発が始められたシミュレーションは、観測結果の解釈に重要な位置を占めると期待される。
|