島弧の中〜下部地殻物質の融解実験はこれまでにかなりの数の報告が出ているが、いずれも場合も出発物質として粒度や量が多様な多数の相を含む岩石の粉末を用いているため、メルトの連結性を支配する要因を掴みにくいという問題があった。本実験ではあらかじめ粒形と量を調整したラブラドライトとパ-ガサイトの混合物を用い、内熱式ガス圧装置による2Kbar、900〜950℃の融解実験を行った。実験産物はEPMAによるX線面分析を行い、画像処理によって部分融解液部の形状および体積の解析を行った。それによると、デイサイト質の部分融解液に対するラブラドライト・パ-ガサイト・単斜輝石(パ-ガサイトの分解生成物)の濡れ角はいずれも60°よりは小さく(およそ40〜50°)、融解液は比較的低い溶解度でネットワークを作り得ることが判った。鉱物相の種類による明瞭な濡れ角の差は認められなかった。ただし、実験産物内のメル分布には少なからず片寄りが見られる。実際の地殻下部においては、差応力の働き方によってメルトの分布が支配される可能性があるが、特別なメルトの絞り出しが起こらなくともおよそ15%(約95℃)程度融解すればメルトネットワークは形成され得る可能性が高い。これは島弧のマグマが(マグマ混合の産物を端成分マグマに振り分ければ)安山岩質なメルトを欠くバイモーダルな頻度分布を持つことを説明し得る。また、少なくとも下部地殻においては、ダイクではなく浸透流またはマイクロクラックによるメルトの移動モードが実現し得ることになる。実験時間内に平衡な部分溶解液が生成したことから、メルトの生成反応は天然においては十分に速く、玄武岩質マグマからの熱輸送に追従して部分融解は進行し得ることがかわったので、ダイクなどによってメルトが急激に分離する温度(融解度)が決まれば、熱輸送のシュミレーションと併せて火山活動の周期性を説明できる可能性がある。
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