非経験的分子軌道計算により、1、Na原子、正負イオンの溶媒和クラスターの構造と電子状態の理論的比較研究、2、Na2の水和と解離機構の研究を展開した。溶媒和Na負イオンの研究を行なった。[Na(H2O)n]^-では、Na-H結合と水の水素結合で安定化した構造が最安定であり、ハロゲンイオンの水和構造と類似している。中性と負イオンの構造は大きく異なるため、負イオンから中性分子のポテンシャルミニマムに近い構造への遷移は困難と考えられる。水和エネルギーは、静電相互作用が重要な正イオンが飛び抜けて大きい。一方[Na(NH3)n]^-はNa-N結合を最大限もつ構造が安定であり、中性や正イオンの構造と類似している。また安定化エネルギーは電荷に依らず互いに似た大きさである。負イオン構造での中性励起状態への遷移に対応するVDEの計算値は[Na(H2O)n]^-でも[Na(NH3)n]^-でも、実験とよく一致した。負イオンの構造での中性[Na(H2O)n]クラスターの不対電子はほぼNaの周りに存在するが、[Na(NH3)n]ではNa上に局在するのではなく、nの増加とともにクラスター全体の空間に非常に広く拡がっていくことが分かった。これらを踏まえて、Na2の中性分子と正負イオンが水和により分極して共有結合構造からイオン対構造へ変化する過程を追跡している。基底状態で水和数が小さいとNa-Naの結合長は中性と負イオンでは水和により分極により伸びるのに、負イオンでは短くなる。この傾向は電荷状態による溶媒和電子の出来やすさに関連すると考えられる。水和数が増えると、水同士の水素結合のため片方のNaに水が片寄って水和する構造が安定になるがn=3まででは解離には至らなかった。分極を大きくするためNH3による溶媒和との比較を進め、負イオンから出発して分光学的にクラスターの解離を追跡可能か、可能ならばどのような実験を設計できるかを検討していく。
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