研究概要 |
1、本研究では、星間空間における星間分子の形成過程のイオン-分子反応のモデルを検証し、さらに新しい反応過程や星間分子の可能性を探るため、硫黄を含む星間分子の形成・反応過程を分子軌道理論により調べた。反応は、炭化水素鎖分子C_nH(n=1-4)にS^+が反応してC_nS^+(n=1-4)が生成する過程で、まず各化学種の平衡構造および電子状態を決定し、次に反応中間体のポテンシャル曲面を描いた。分子軌道計算は全て本補助金により購入したHP712/80エンジニアリングワークステーションおよび分子科学研究所計算機センターのIBM SP2を用いた。 2、計算は全て非経験的分子軌道法により行い、基底関数としては、DZP基底を、エネルギー計算には2次のMφller-Plesset摂動法(MP2)を、さらに解析的エネルギー微分法で平衡構造を求めた。また中間体のポテンシャルエネルギー曲面の計算は、配置間相互作用(CI)法により行った。 3、C_nH(n=1-4)およびC_nS^+(n=1-4)は、いずれも直線型が基底状態となり、C_nH(n=1-4)にS^+が反応してC_nS^+(n=1-4)が生成する反応は、熱化学的には発熱反応であり、星間空間で実際に起こりうることがわかった。ただし、S^+がC_nHのC末端を攻撃し、同時にHが解離するのか、中間体を経由するのかがわからない。そこでCHにS^+が反応して、CS^+が生成する過程を詳細に検討した。この反応は熱化学的には2.8eVもの発熱反応である。中間体と考えられるHCS^+のポテンシャル面を調べると、S^+がC_nHのC末端を攻撃した場合、中間体HCS^+は折れ線型の3A′状態となり、Hの解離には低い反応障壁が存在する。また別の経路としては、分子領域で可視光を放出して安定なHCS^+(^1Σ^+,直線)を経由し(放射会合)、その後解離的再結合によりCS^+が形成される可能性があることがわかった。なお各化学種の安定構造に関する報告(論文)を現在投稿中である。
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